はじまりはゆき

12月に入り寒い日が続きます。
今日、川越もついに初雪が降りました。
この時期に降るのはちょっと珍しいかもしれません。
朝から驚いてしまいました。

さて、雪。
自分の結婚式当日にもしも雪が降ったとしたらあなたはどう思いますか?

少し前の話になります。

私がこの仕事を始めて間もない頃、今でも強く印象に残る結婚式を経験しました。
そう、その日は朝から雪でした…

なにかやたらと外が明るく感じていつもより早く目が覚めて窓を開けたとき、外は一面の銀世界。

「あー、参ったな。」

その日、私には担当をさせて頂いていたお客様の結婚式がありました。
正直なところ雪だけは勘弁してもらいたかった。
なぜなら降れば降るほどに必ずゲストの「足」に影響が出てくるから。
ご新郎の実家は東北地方だったこともあり、かなりの数のご親族が遠方から車と電車でお越しになる予定でした。
しかも飛行機を使って来る予定のご友人もいます。

「到着できずに欠席の方も出るかな…」

嫌な予感が胸をよぎります。
とりあえずは会場周辺の雪かきをしないといけません。
私は慌てて着替え、家を出ました。

挙式の開始予定時刻は正午。
午前9時過ぎ、新郎新婦おふたりが準備のため少し予定よりも早く来館を
されました。案の定、かなりの心配顔です。

「大丈夫ですかね。皆さん時間どおりに来てくれるでしょうか…」

「大丈夫ですよ。雪だってこのまま降り続きはしないはず。皆さん早めに家を出て、時間にはちゃんと集まってくれますよ。」

とりあえず励まそうと、根拠もないのにそんな返答をしてしまった私。
しかしその後、雪は弱まるどころかむしろ強まるばかり。
ニュースでは慣れない雪でパニック状態に陥った首都圏の様子が繰り返し報じられていました。
スリップにより相次ぐ車両事故。
一番恐れていた電車の遅れや飛行機の欠航。

ゲストの集合時刻が過ぎた11時40分。
その段階で合計76名集まるべきところ、まだ55名しか到着していない状態でした。中には電話でどうしても間に合わないという連絡を入れてきた方も。

時間どおりに始めるべきか、それとも待つべきか。
こんなとき式場としてどのように対応をすればよいのか。
これは難しい判断になります。
結婚式にはたくさんのゲストが集まっており、その方々それぞれに事情や予定があります。
また、その日結婚式を挙げるお客様は一組だけとは限らないのです。

このときの場合。
新郎新婦、両家両親、その日結婚式を挙げる別のお客様、その他たくさんの関係者の方々と話し合った結果、開始時刻を30分遅らせることになりました。
そしてなおかつ、私のお客様は挙式を披露宴内で行う人前式に変更されました。
つまり当初の予定では正午から挙式、披露宴が午後1時からの開始予定でしたが、それを午後1時30分からの披露宴ですべてを行うことに変更をしたのです。
新郎新婦にとっては凄い決断だったと思います。
でもその結果、無事にすべてのゲストが集まったうえで開始を迎えることができたのです。

急きょ決まった人前式。
今でも忘れません。
ご新郎の誓いの言葉は実に立派でした。

「まずは今日あいにくの天候のなか、皆様にこうしてお集り頂きまして誠にありがとうございます。
そして、私達のわがままで予定よりも開始時刻を遅らせてしまいましたこと深くお詫び申し上げます。
でもおかげでこうして私達の本当にお世話になった皆様全員に結婚を誓うことができて本当に幸せです。

考えてみれば、私が産まれた日は雪だったらしいですし、小学校の入学式も春なのに雪が降っていました。
スノーボードが共通の趣味の私たちは初めて行ったデートも、告白した場所も雪山でした。

そして今日も雪です。
始まりはいつも雪でした。
なにか大切な日は雪が降ることになっているのかもしれません。
私たちふたりは力を合わせて幸せな家庭を築き共に生きていくことを、ここにいる皆様と雪に誓います。

平成●年●月●日

夫 ●● 貴司  妻 美奈子」

もちろん最後のところはふたりで声を合わせ誓われていました。

本当に素晴らしい人前式と披露宴でした。
でも実はあのときの私はなんだか不思議な気持ちでその日のおふたりの姿を見ていました。
不思議な気持ちというのは変な意味ではありません。
今になってみればその理由がわかるのです。
どんな新郎新婦にとっても結婚式にはたくさんの「キセキ」が起こります。
あの日、あの新郎新婦にはそれこそたくさんの「キセキ」がありました。

悪天候のなか、全員が集まれたのも「キセキ」
開始時刻を遅らせることが出来たのも「キセキ」
急きょ、人前式に変更を決断できたのも「キセキ」
彼のリハーサルなしの誓いの言葉も「キセキ」
そして大切な結婚式の日に雪が降ったのも「キセキ」

まだ結婚式で起こる「キセキ」に慣れていなかった私は、凄く不思議な気持ちを抱いたのだと思います。
本当によい経験をさせて頂きました。

雪。
いいものですよね。
もしかしたら普通に晴れの日の結婚式よりも、当人にとってもゲストにとっても忘れるのことのできない素晴らしい一日にしてくれるかもしれませんよ。

ちなみにあの日の新郎新婦にはその後可愛い女の子のあかちゃんが産まれました。
名前は、
「有紀」ちゃん 。
やっぱり始まりは「ゆき」でした。